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2018年5月29日 (火)

クマと僕とリンゴ

(公開日記より)

【2018年3月30日】

今日は(私は同行できなかったが)家人と息子が官邸前のデモに参加した。
何よりも、言葉を守るため。
この5年間(現政権によって)踏みつけられ続けてきた「言葉」を取り戻すため。

そしてちょうど同じタイミングで官邸前から帰宅した家人と息子と、夕飯をいっしょに食べた。
お疲れさま。キャンドル三つもらったのか。

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【2018年3月31日】

“僕はリンゴを食べながら歩いているクマを見た。”
と紙に書き、
「これ、リンゴを食べたのは“僕”かクマか、どちらか分からないよね?」
と言って読点の(位置と有無の)重要性を息子に説明したのは、彼が小学3年生くらいの頃だったか。
クマ好きだった彼はケラケラ笑って頷きながら耳を傾けてくれた。

言葉を軽んじ、言葉を踏みにじり、言葉から逃げる。そういう人物を首相に据えてしまうことを繰り返さないために、まずは自分自身が言葉を(できるだけ)大切にしたいと思う。

読点の位置と有無に気を配るのはその第一歩で、それはつまり他者に対して誠実であろうとすることなんだよ(と息子へ)。



by りき哉

2018年3月18日 (日)

【後編】 人形アニメーション作りと小説執筆と、そして本作りと/お父さん日記・2018春

昨年のログ「人形アニメーション作りと小説執筆と、そして本作りと/お父さん日記・2017特別編 2」を読んだ方から「その後どうなったの?」とお尋ね頂くことが幾度かあり、誠にかたじけない限りです。

以下、後編です。(前編を未読の方は、ぜひそちらを先にどうぞ)

 

 

・・・その後、束見本は無事に完成。そして(都合良く)それを夏休みの自由研究とする。糸かがり以外のノートも何冊か作って、レポートも(夏休み終わり間際というより新学期スタートの朝ようやく)仕上げて提出したそれは、ありがたくも学校長賞を賜った。良かったじゃん。

 

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そして夏も終わる頃、いよいよ自作小説の製本へ。白紙ノートの製本と違ってまず中身を印刷しなくてはならない。台割を考え、パソコンに向かって手作業で1ページずつ面付けする日々が続く。

 

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面付けがようやくできたら、全400ページの印刷。まずノンブルを印刷してから↓

 

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そこに本文を印刷する。↓

 

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1折り16ページ分が印刷できるごとに、ページ順に正しく並んでいるか確認する(と、間違っていてやり直すことも多々)。

 

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しかしなんとかここまで来た。

 

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よし、ここからは束見本で練習した(そして校長賞を頂戴した)腕の見せどころ(だよな?)。

 

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少し手慣れてきた糸かがり。

 

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ついに完成した初版本は、しかしその仕上がりが不本意で本人に喜びは全くない。

 

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糸かがりは糸にゆるみを残し、書籍用の紙の厚さゆえに裁断もうまくゆかず、紙で作った背表紙はすぐに破れて取れてしまった。そして(暫く放置された後)これは校正・校閲用プリントということに。

 

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「校正・校閲用プリント」としては豪華極まりない糸かがり上製本への赤入れ、それを参照しながらパソコンで本文直し、それに伴って台割・面付けもやり直し。再び印刷工程に辿り着いたのは年末だった。
初版本の反省を踏まえて、製本・装丁の工程一つ一つを慎重に進める。

 

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背表紙も(紙でなく)布張りにする。

 

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大晦日も作業に没入し、そして今年の元日、第二版が完成した。今度は仕上がりも上々じゃない?

 

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28万字の執筆から、印刷・製本・装丁まで。自身の「文学作品」にして且つ「工芸作品」。

この経験は宝ものだな。

 

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大作完成おめでとう。

・・・

・・・え?

・・・今度はこれの文庫本を作るの? ほ、本当に??

 

(了)

 

【お父さん日記シリーズ】

 

子どもの言葉の軌跡(お父さん日記・2008-2009)

 

お父さん日記・2011夏

 

お父さん日記・2011秋〜2012初春

 

お父さん日記・2012春〜師走

 

お父さん日記・2013

 

お父さん日記・2014

 

お父さん日記・2015春

 

ゲルマニウムラジオ作り/お父さん日記・2015夏休み特別編として

 

お父さん日記・2015夏〜師走

 

自分の机を作る の巻/お父さん日記・2017特別編 1

 

人形アニメーション作りと小説執筆と、そして本作りと/お父さん日記・2017特別編 2

 

 

 

by りき哉

2017年9月12日 (火)

人形アニメーション作りと小説執筆と、そして本作りと/お父さん日記・2017特別編 2

2017年8月の公開日記より、「お父さん日記・2017特別編 2」として。

 

 

【2017年8月2日】

 6年生に上がる少し前のこの春先から、息子は毎日学校から帰ると(やることをやってからにしなさいと母親に叱られながら)パソコンでコツコツと小説を書いていたのだが、この度それが完成したとのこと。ほう、随分たくさん書いたな、とテキストを文字数カウンターに入れてみたら、28万字もあった。

 ちなみに彼が小説を書き始める前に夢中になっていたのは、レゴブロックを使った人形アニメーション映画制作だった。小5だった昨秋のこと、デジカメで日々せっせとコマ撮りし、千何百カットを(私が貸し与えた)MacBookのiMovieに取り込み、台詞を録音し、アナログシンセで効果音も作り、テーマ曲や劇中音楽も作曲・録音し、約4分の映像作品が生まれた。

 宇宙戦争もので、ストーリー的には『スターウォーズ』の真似に過ぎないのだが、その制作に注いだ時間と熱意には感心するところもあり、作品は親馬鹿目線でなかなか楽しめた。(ちなみに私も声の出演で悪者役を与えられている)

 そしてさらに数ヶ月をかけ、その4分の作品を第一話とする全7話・トータル約30分の映画が完成した。惑星の爆発シーンのために紙粘土で惑星を作るなど、せっかくそこまでしているのに、部屋に取り込んだ洗濯物の山が背景に映っていたりする。どうして“宇宙空間”にお父さんのパンツがあるのか。

 万事がその調子なので「神は細部に宿るんだよ」と諭すのだが、監督の心に届いた様子はない。
それはそうと、そもそもなぜアニメーションを作ろうと思ったのか尋ねると、「レゴで遊んでいて、これが動いたら楽しいだろうなって前から思ってたから」と、ストレートな動機だった。

 かように熱中していた人形アニメーション制作であったが、全7話が完成すると今度は「アニメーションよりも文章の方が自由に表現できることに気づいた」と言って小説執筆を始めたのだった。アニメーションだと爆発シーンなどの映像化が難しいけれど、文章なら好きなように描写できるからとのこと。

 物語の内容や文章の巧拙は(“宇宙空間”に洗濯物が映り込んでいても無頓着でいることひとつからも察しがつくが)ともかく、半年かけて28万字もの作文をしたその仕事量と熱量には、やはり少し感心しなくもない。しかし28万字も作文できるなら、どうして読書感想文はそんなに苦手なのか。

 

 さて、そして彼が目指しているゴールはどうやら(物語の執筆までではなく)製本までなのだ。自宅のプリンターで印刷して、それを手作業で製本する心積もりなのである。市販本のような本格的な装丁をイメージしている。パソコンでの執筆を縦書きに拘っていたのもそのためらしい。
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 先日は「本ってどうやって綴じるの?」と訊かれて、私も知らなかった(本の手作りなんて今まで考えたこともなかった)ので一緒に調べた。様々な製本方法の中で彼の心に触れたのは糸かがりの洋綴じであった。
 これは大変そうだよ?
しかし彼はそれでやると言う。ならば頑張ってみなさい。

 いきなり本番でなく、練習・実験で束見本(つかみほん)を作ってみた方が良い、という私の助言に渋々従って、まずは(本番と同サイズ・ほぼ同ページ数の)ノートを作ってみることに。
クラフト用の縫い針と糸を自分のお小遣いで買ってきて、作ってみているところ。(今ここ。photo 4枚)

 

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【補記】
(アニメーション作りのくだりはかなり端折ったつもりながらも)10連続ツイートとなりました。
続きはまたいずれ(もしこの後も無事に製本が進めば)。

 

【補記その2】

その後を(記録として)書き残しました。

こちらです→ 【後編】 人形アニメーション作りと小説執筆と、そして本作りと/お父さん日記・2018春

 

 

by りき哉

 

 

【お父さん日記シリーズ】

 

お父さん日記・2011夏

 

お父さん日記・2011秋〜2012初春

 

お父さん日記・2012春〜師走

 

お父さん日記・2013

 

お父さん日記・2014

 

お父さん日記・2015春

 

ゲルマニウムラジオ作り/お父さん日記・2015夏休み特別編として

 

お父さん日記・2015夏〜師走

 


子どもの言葉の軌跡(お父さん日記・2008-2009)

 

自分の机を作る の巻/お父さん日記・2017特別編 1

 

 

 

自分の机を作る の巻/お父さん日記・2017特別編 1

 

2017年7月の公開日記より、「お父さん日記2017特別編 1」として。


【7月2日】

投票を済ませて、今日は息子と日曜大工の巻。

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【7月24日】

そして後日、完成しました。
自ら構想して作った自分の机。

 
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photo1: 細部まで手触り良く。


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photo2: 完成したところ。


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photo3: 壁面の書棚にビルトインできる仕様です。


 おとなになった時には宝ものになってるよ。

 「どれだけ丁寧に作ったか」 と、「ここでこれからどれだけ勉強するか」 によるけどな。


by りき哉




【お父さん日記シリーズ】

お父さん日記・2011夏

お父さん日記・2011秋〜2012初春

お父さん日記・2012春〜師走

お父さん日記・2013

お父さん日記・2014

お父さん日記・2015春

ゲルマニウムラジオ作り/お父さん日記・2015夏休み特別編として

お父さん日記・2015夏〜師走


子どもの言葉の軌跡(お父さん日記・2008-2009)




2017年5月 2日 (火)

「すみません、ちょっといいですか?」

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今年ももう新緑の季節です。

2年前の6月、「疑う人と疑われる人」というタイトルの記事をアップしました。

それは、私のある日の甚だたわいのない日記を公開したものだったのですが、その記事の文末に(2年越しとなりましたが)続きを書きました。

「続き」というよりも、実際のところは「本題」です。

どうぞご一読ください。

こちらです。
↓↓↓
疑う人と疑われる人 (2015.6.30)


by りき哉

2017年1月 2日 (月)

2017年 丁酉/年頭ご挨拶

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ことばにより抽象されるものと、捨象されるものをいつも思います。

ピアノの音の消えゆく余韻に耳を澄ますように、ことばの網目のゆらぎに目を凝らす。

何かを語ろうとすればするほど語り得ないものの大きさに圧倒され、つい沈黙を選びそうになる。

おいおい、しっかりしろよ、と自分に言い聞かせて、またことばを探す。

その繰り返しの日々ですが、自分のペースで歩み続けるよりほかありません。

時には道草食いながら。

というより、そもそも何が道草になるのかは事後的にしか判ろうはずもなく。

ただ、その網目の一つ一つへ当て続ける光を大切に。


・・・と、何やら独り言のようになってしまいました。


あけましておめでとうございます。

当ブログは開設十周年を迎えます。引き続き、愚考を丁寧に巡らせていきたいと思っています。

本年も、どうぞよろしくお願いいたします。


photo:
家にあった(飛騨高山で買ってきた)文鎮を撮ってみました。
(PENTAX K200 +smc DA 35/2.8 Macro Limited)


【年頭ご挨拶の追伸】
過去ログの中より、改めて一つだけご案内します。

「今日は雨だからコーヒーには味噌を入れましょう」と言われたら (2015.5.9)


by りき哉


2016年12月16日 (金)

親方より、愛弟子だった Y U さんへ

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「親方、これからもずっと、すてきな音楽をたくさん作り続けてください。それだけどうしてもお伝えしたくて」

そう言って電話をくれたのは、今年の春、いや、梅雨の頃だったろうか。
唐突にそう言われて、「うん、ありがとう」くらいしか答えることができなかったのは、半年後には新作のアルバムを聴いてもらえる筈だと、そう思いたかったから。

もう10年近くになるんだっけ?
レッスンを通してたくさんの言葉を交わしてきたけれど、本当にそれがお別れの言葉になってしまった。


あなたはいつもスタジオに来るや、堰を切ったように身近な出来事や感じたことをいろいろと報告してくれて、それで毎回のレッスン時間は随分と長いものになった。初めて来た日も自己紹介を丁寧にしてくれて、百万人に一人くらいの発症率だという病気のことも詳しく話してくれた。

レッスンで何か一つ教わってそれができるようになると子供みたいに喜んで、与えられた宿題は嬉々として持ち帰って・・・。
親方のトリオや「タカオバンド」、それに「bando-band」や「調草子 Kaori-ne」や「あわいびと」、どのライブにも必ず来てくれて、メールでも、次のレッスンでも感想をたくさん熱く語ってくれた。

それに、このブログのたわいない一つ一つの記事をいつもじっくり深く読み込んでくれていたことも、とても嬉しかったよ。
そうそう、だから今ここに書いているんだよ。あなたがきっと読んでくれるだろうと。


とりわけ、ピアノ・フリーインプロビゼーションの録音をここにアップした時には、あなたはその音楽をとても気にってくれて(「気に入る」という言葉では圧倒的に不足でしょうけれど)、それを自分の英語塾で一人一人の生徒に聴かせて、のみならず、その一人一人から感想を聞き出して、それをぜんぶ紙に手書きして、紐できれいに綴じてプレゼントしてくれたこと。

それを、本棚から取り出してきて読み返したよ。
日付を見ると、2008年の12月とある。
中学生から年配の方までそれぞれに、この抽象的な音楽からこんなにも様々に何かを感じてもらえたんだね。何よりその言葉の豊かさに驚くよ。さすがあなたの生徒さんたち、なのだろうか。
これは親方の一生の宝物です。

あなたもまたいつでも読み返せるよう、音も聴けるよう、ここに載せておくね。


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あ、あと音源をアップした元記事のリンクもね。

音楽を深く感じるために (2008.6.2)


ずっと前に「親方に似合う」と言って教えてくれた“Excellence is a thousand details”という言葉と、先の電話で伝えてくれたことを心に留めて親方もがんばるので、今年の1月に伺ったお宅で出した宿題を、あなたもそちらできちんとやっておくように。

あなたの大切な(おそらくは密かに覚悟も抱いていたであろう残された)時間を、こんな親方のピアノレッスンと音楽に注ぎ続けてくれて、本当に、本当にどうもありがとう。

そうそう、あなたの大好きだった『五月の唄』をピアノトリオで録音したアルバムが、無事に完成したんだよ。
そちらで氷取沢のような森をゆったり散歩しながら、どうぞ聴いてみてください。


親方・りき哉

2016年7月 7日 (木)

2016年七夕に思うこと

2016年の七夕に、今思うことをあらためて記しておきます。
(今に限らず、取り分けこの3年ほど常々思っていること、そしてここで折々に繰り返し書いてきたことです)

今年のお正月に、私は「言葉を大切にしたい」と書きました。
 (こちら:2016年 丙申/年頭ご挨拶

言葉を大切にしたい。

ともかく、これに尽きます。

その文脈で、2月にはこんなログをアップしました。
子どもの言葉の軌跡(お父さん日記・2008-2009)


さて、「言葉を大切にしたい」などと(社会人として当然のことを)私がわざわざ表明するのはなぜか。

それは、昨年アップした下記ログ(の文中に貼ったリンク先)を多くの人と共有したいからです。

「今日は雨だからコーヒーには味噌を入れましょう」と言われたら

「言葉を大切にしたい」というのは、言葉遣いを丁寧にするとか(そういうことも無関係ではありませんが)そういうことを言いたいのではなくて、もっと根源的に、「他者と解り合おうとする気持ちを持つか否か」の話をしています。

つまり、他者と解り合うために論理を丁寧に踏まえたい、ということです。

そういうわけで、上述の記事をここに全文再録しておきます。

(以下転載)

「今日は雨だからコーヒーには味噌を入れましょう」と言われたら

(2015年5月9日)

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もしも、晴れた日に「今日は雨だからコーヒーには味噌を入れましょう」と家人から言われたら、どうすれば良いだろうか。


「いや、今日は晴れている」
 と言えばよいのか、

「天気が雨であることがどうしてコーヒーに味噌を入れる理由となるのか」
 と訊くのか、

「味噌入りコーヒーは異常だ」
 と諭すのか。

私はコーヒーに味噌を入れたことはないが、実際に試すまでもないだろう。
そもそもそれは「コーヒー」とは言えず、どちらかと言えば「味噌汁」と呼ぶべきものになる可能性も充分にある。


つまり家人の主張は、前提と、論理と、結論の、すべてがおかしい。(※1)

しかも、いずれを指摘されてもただ「雨が降っているからコーヒーに味噌を入れる必要がある」と持論を繰り返すばかりで、それが家人にとっては「丁寧に説明する」ということであるらしい。(※2)

・・・

近頃、こうした弁舌が日常に溢れていることに驚いている。


そしてマスメディアはこれを、「あなたはコーヒーに調味料を入れることに賛成ですか?」という問いにしてしまう。(※3)


このコミュニケーションの不調を前にして、どう応じればよいのだろうか。


photo:
PENTAX LX+planar50/1.4+PRESTO400 (self development)


・・・という次第なので、この「コーヒー」とは何かについて、多くの人とシェアしたいと私が思うリンクを二つだけ紹介します。


憲法って、何だろう?(解説版)

↑奈良弁護士会による、絵本「憲法って、何だろう?」の解説。なんて平易で丁寧な語り口でしょう。「丁寧に説明する」とは、正にこういうことではないでしょうか。


そもそも憲法がわからない:立憲主義と自民党憲法案

↑『静かに「政治」の話を続けよう』(亜紀書房)より、著者の岡田憲治氏が一章分をまるまるweb公開されています。ウィットに富んだ名調子に、思わず引き込まれます。




蛇足ながら・・
パロディを解説(してしまっては何のためにパロディ化したのか分からなくなりますが)しておきます。

今日は雨だからコーヒーには味噌を入れましょう
という主張と、
あなたはコーヒーに調味料を入れることに賛成ですか?
という設問は、

「今日は雨」→「現憲法はGHQに押し付けられたみっともない憲法」
「コーヒー」→「憲法」
「味噌を入れる」→「立憲主義をやめる」
「調味料を入れる」→「内容はさておき現憲法をとにかく変える」

とそれぞれ置き換えると、今のリアルな言論風景が立ち現れる仕組みになっています。(※4)


【注釈】こちらです↓

(※1)
このように矛盾点を二つ以上含んだ論法を、憲法学者の木村草太氏は「多矛盾系」と呼んでいます。

【憲法学で読み解く民主主義と立憲主義(1)】――「多矛盾系」としての集団的自衛権
(國分功一郎氏とのこの一連の対談も読み応えがあります)


(※2)
「今日は雨」という前提と、「だから」という論理に対しては、例えばこのような反論と批判があります。

自民党の改憲漫画から「押しつけ憲法論」を考える(渡辺輝人)

明日の自由を守る若手弁護士の会: いまだに「押しつけ憲法論」とかいって…2015


(※3)
一例として。(2015.6.25追記)
なぜ読売新聞の世論調査では「安保法制賛成」が40%もいるのか? 回答誘導のカラクリ


(※4)
現政権の憲法観は以下の通りです。
日本国憲法改正草案

改正案についてのQ&A
(いずれも、自民党HPにあるPDFファイル)

その何が問題なのかについて、下記のサイトでは憲法の現行文と自民の草案を見やすく比較できるように、前文から1条ずつ全てがまとめられています。
自民党憲法草案の条文解説

(転載以上)




by りき哉

2016年2月 7日 (日)

子どもの言葉の軌跡(お父さん日記・2008-2009)

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(2009年のお父さん日記より、記録として)


 
● Episode 1

「おとおさん、ぴなおひいて」

「ぴなおじゃなくて、ピアノだよ」

「ぴなお?」

「ううん、違う。ピアノ。『ピ』」

「ぴっ」

「ア」

「あっ」

「ノ」

「のっ」

「そう! ピ・ア・ノ」

「ぴ・な・お!」

「アハハ、どうしてもぴなおになっちゃうね~」

ケラケラケラ。


・・というやり取りをしていたのは、彼が2歳半くらいの頃だったろうか。

その後、「ピアノ」が言えるようになってからもラ行の発音は難しいようで、長いことラ行はほぼア行に(例:クラリネットは「くあいねっと」に)なっていたが、3歳半になった今ではそれもハッキリと発音している。

初めて耳にする言葉も瞬時に音を正しく聞き分け、すぐにその場で習得してゆく様子は頼もしくもある一方、一音節ずつ間違えないように慎重に発話しようとする姿はとても健気だ。


 
● Episode 2

発音の習得とは別の、論理を獲得している様子に微笑んだことも多い。

2歳7ヶ月の頃、朝食の支度をしている母親に彼が尋ねた。


「おかあさん、ばななよーぐうと つくってるの?」

「ううん。バナナはないの。ただのヨーグルト」

「ただのよーぐうと?」

「そう」

「ただはいってうの? (タダ入ってるの?)」


彼は「リンゴのヨーグルト」にはリンゴが、「バナナのヨーグルト」にはバナナが入っていることを知っている。「ただのヨーグルト」にはタダが入っていると推測するのは尤もなことだ。
極めて妥当な推論に、ちょっと感心したのだった。

こうして子どもは経験と知識と推論をたくましく駆使し、言葉の世界をぐんぐん広げてゆくのだなあ。

「タダは入ってないよ」と言われた彼は、それではタダとは何だろうと神妙な顔つきで考え込んでいたのだが、いつの間にか(少なくとも半年後には)正しく(そして得意顔で)「只の」を使いこなすようになっていた。

「てにをは」、「〜から」(確定の順接)、「〜ても/でも」(仮定の逆接)、「〜だけ」(限定)といった助詞の使い方が完璧であることに感心したのも、ちょうどこの頃だったと思う。


 
● Episode 3

論理の獲得の元をたどると、彼が初めて複数の語句を繋げた文をしゃべったのは、それより半年ほど前、2歳2ヶ月のある日のことだった。


「おっきいたんたんのって、ぺんぎんみう!」

(訳:大きいガタンガタン(電車)に乗って、ペンギンを見る=見に行く)


水族館に向かう電車や駅構内で、そして水族館でランチを食べている時も、ペンギンを見て水族館を後にした帰路でも、彼はこの一文を何度も何度も繰り返ししゃべった。

もちろんその文は彼が独自に作り出したのでなく、親が語りかけた一言を真似て発したものだが、なにしろ昨日まで語句を単独で発するだけだった彼の、それが最初の文だった。

「おっきいたんたんのって、ぺんぎんみう!」

初っぱなから(単文でなく)複文である。(※)
しかも前節の目的語は修飾語を伴っている。

子どもの「言葉の宇宙のビッグバン」は、こうして起きるのか。


 
● Episode 4

「宇宙」の膨張の軌跡として、彼との会話をもう一つ採録しておく。
ビッグバンから3ヶ月後、先述の「ただのヨーグルト」より2ヶ月前のこと。

居間で仕事をしていた私に、彼がにこにこ顔で話しかけてきた。


(自分の手のひらを指しながら)
「これてのひら」

「そうだね。手のひら」

(自分の足の裏を指して)
「これあしのひら」

「あはは。そうだね。でも足はひらって言わないんだよ。足の裏」

「あしのうら?」

「そう」

「あしのうら!」


彼は「手のひら」を形態素(て+の+ひら)に分解し、「ひら」は「足」に応用できると帰納的に推論し、その大発見を父親に報告した。

その発見は(惜しくも)却下されたが、彼はそれを残念がることもなく、「あしのうら」という新たな知見を得て嬉々としていた。



 

トップの写真:
「言葉の宇宙のビッグバン」が起きた日(2008.2.19)


● 付録

2歳の誕生日を迎えた頃(初めて文をしゃべる日より2ヶ月前)の、彼の語彙を辞書にしたもの。 (当人としてはもっと多くの語句を使っていた可能性もあるが、親として把握していた語句はおよそ下記の通り。2007年12月26日作成)

【あお】青
【あっか】赤
【あつい】熱い、暑い
【あった】あった、いた
【あっち】あっち(方角を示す)
【い】自分のこと
【いたい】痛い
【うま】馬、またがること
【うみ】海
【おか・おかっか】お母さん
【おと・おとっと】お父さん
【か】かぼちゃ
【がたんたん】電車
【がったんがったん】シーソー
【き】木
【き】救急車
【ぎ】鍵
【きん】キリン
【く】靴、靴下
【くぇ】クレヨン
【クェー】クレーン車
【クォー】クロワッサン
【げ】ゲーナ(アニメのキャラクター)
【ご(ぼ)】ごはん
【こわい(くわい)】怖い
【し】CD
【じ・じいじ】おじいちゃん
【しい】美味しい
【しゅ】スヌーピー
【しゅっしゅっ】蒸気機関車(→ぽー)
【す(しゅ)】座る
【ぞう(どう)】象
【だっく(だっき)】抱っこ
【たっち】立っち
【ちっち】おしっこ
【ちゅ】飛行機、ヘリコプター(根拠不明)
【て】手
【な】魚
【な(ま)】:バナナ
【な】おなら
【ない】ない、いない
【にゅ】牛乳
【にゅう】うんち(根拠不明)
【ね】猫
【ねんね】寝る
【ば】バス
【ぱ】パトカー
【ぱ】葉っぱ
【ばぁ】おばあちゃん、いないいないばあ
【はい】はい(返事)
【ばいばい】さようなら、いってらっしゃい、あっちへ行け
【びぃび】チェブラーシカ(アニメのキャラクター)
【ぶ】ブランコ
【ぶうぶう】クルマ(乗用車)
【ぱん・ぱんぱん】パン、パン屋さん
【ぺん】ボールペン
【ほ】星、月、太陽
【ぼ】帽子
【ぼ】どろぼう
【ぼう・ぼー】消防車、ボール
【ぽー】蒸気機関車(→しゅっしゅっ)
【ほん】本
【ぽんぽん】お腹、お腹がすいた
【まんまん】アンパンマン、アンパンマンジュース
【みみ】耳
【め】目
【もーも】牛
【わんわん】犬



以上、言語学に関心を抱く契機となった岡本夏木著『子どもとことば』(岩波新書)へのオマージュを込めた観察記録として。


(※)
参考:[日本語教育](外部サイト)
   重文・複文

関連ログ:お父さんな日々(2008.4.5)
   「おっきいたんたんのって、しまんもしゃつかう」


【お父さん日記シリーズ】

お父さん日記・2011夏

お父さん日記・2011秋〜2012初春

お父さん日記・2012春〜師走

お父さん日記・2013

お父さん日記・2014

お父さん日記・2015春

ゲルマニウムラジオ作り/お父さん日記・2015夏休み特別編として

お父さん日記・2015夏〜師走



by りき哉


2016年1月 3日 (日)

2016年 丙申/年頭ご挨拶

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耳を澄まし、何かを感じる。

その「何か」が何なのか。それを捉えようと言葉にする。

言語化によって現前するものがあり、言語化によって失われるものがある。

捨象されるものをいつも思い、恐れ、一方で、言葉によって初めて対象を深く認識する可能性を思う。

連続する有形無形の様々な事物を言葉が切り分けるその網目は、常にゆらぎを伴い、時に編み直されて変化してゆく。

その様子を俯瞰しながら、その中を泳ぎ続ける。


大切にしたいものは、言葉と、音楽。

あるいは、言葉と音楽の間。

東日本大震災から5年が経つ、2016年の年頭に漠然と思い巡らすこと。

(備忘録として)


閑話休題。


あけましておめでとうございます。

昨年は「ひと粒のちからプロジェクト」こと「あわいびと」として、その音楽をCDアルバムという形にすることができました。(※)

たくさんの応援をいただきまして、どうもありがとうございます。

当ブログは開設9年を迎えます。引き続き、愚考を丁寧に巡らせていきたいと思っています。

本年もどうぞよろしくお願いします。


(※)あわいびと Official Website
   
   2016.3.10 あわいびとライブ at 中目黒「楽屋」のお知らせ


photo :
PENTAX LX + planar 50/1.4 + 400TMAX (self development)


by りき哉


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