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2024年10月 7日 (月)

組曲「空と蝶」について

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2024年秋。
委嘱されて書き下ろした楽曲が、10月6日ルーテル市ヶ谷ホールにて初演されました。
(詳細→ 「ソプラノ、クラリネット、ピアノのための三重奏曲」初演コンサートご案内

今年初春のこと、委嘱を受ける際に頂戴した条件は
・「ソプラノ、クラリネット、ピアノのための三重奏曲」であること
・長さ15分ほどの作品であること
という二つだけでした。
「あとはすべてお任せします」とのことで承り、私の作曲は曲のコンセプトを思案するところからスタートしました。
楽譜が書き上がるまでの半年間にわたる、とても得難い経験となりました。

以下はその楽曲の解説として、コンサート当日のパンフレット用に書いたテキストです。

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ソプラノ、クラリネット、ピアノのための三重奏曲
組曲「空と蝶」(作曲:中村力哉 作詞:大江友海)

「ただ一匹の蝶が飛ぶためにも空全体を必要とする」
 これは詩人ポール・クローデルの言葉です(註)。本作は、この言葉から広がる一片の物語をソプラノ、クラリネット、ピアノの三重奏によって描くことを試みた、三つの小曲からなる組曲です。
 音と音、音と静寂が結びついてひとつの音楽となるように、あらゆる事物は互いに結びついている。すべての存在者が互いに他を欠き、他を補い合う。だから真の孤独者は決して存在しない。「一即一切」とも重なるその世界観を調性音楽に編み、詞を友人のシンガーソングライターである大江友海さんにつけていただきました。やわらかく深い余情に包んで音楽を鮮やかに拓いてくれた大江さんに、心より感謝しています。
 第一楽章(第1曲)は「母性」から照らした、子どもたちの澄み渡る未来への讃歌です。モチーフは重複しない6つの音からなり、その最後の音を起点として次のモチーフが新たに6つの異なる音を紡いでゆきます。この仕組みが「一切の事物が連関しているありよう」を象徴し、「いのちを言祝ぐ物語」を芽吹かせました。第二楽章(第2曲)ではピアノが森の奥の泉を、クラリネットは草木たちのざわめきを奏で、歌は言葉の始原を見つめています。第三楽章(第3曲)に入ると調性のゆらぎの中でゆめとうつつのあわいに三者は混交し、第四楽章で第1曲に還り、組曲はひとつの円環を閉じます。
 この作曲の機会を得たこと、本日の初演によって楽曲にいのちが吹き込まれること、その喜びは言葉に尽くせません。
 ただ一匹の蝶が飛ぶためにも空全体を必要とする。この言葉を母胎とした本作が、平和への祈りとして皆さまの心に響くことを願っています。
(註:井筒俊彦「クローデルの詩的存在論」より)(中村力哉)
 
・・・  ・・・  ・・・

ふたつの手のひら。それらは蝶のようにちっぽけで非力に見えますが、むすんでひらいて……生み出せるものは私たちの想像をはるかに超えるように思います。近くの遠くの誰かのために、世界のために。一人ひとり(の手のひら)に秘められた力を、この曲をきっかけに思い出していただけたら、こんなにうれしいことはありません。(大江友海)

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以上、楽曲解説文でした。

そして、パンフレットには敢えて(音楽として伝えたかったので)掲載しませんでしたが、この歌の詞を文字でも読んでいただけるよう写真で残しておきます。
(クリックで大きくなります↓)

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この度の初演によっていのちを吹き込まれた組曲「空と蝶」が、これから広い空へと羽ばたいてゆきますように。

また新たな進展をご報告できると思います。

どうぞご期待ください。

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ソプラノ、クラリネット、ピアノのための三重奏曲
組曲「空と蝶」

【委嘱初演データ】

2024年10月6日(日)
ルーテル市ヶ谷ホールにて

“Trio di voci”
クラリネット:飯塚崇志
ソプラノ:安孫子みどり
ピアノ:水口綾子

【コンサート後記】(上記リンク先より)

膨らんだ期待が音になってホールに響き渡りました。この嬉しさを表す言葉を知りません。
ソプラノの安孫子みどりさん、クラリネットの飯塚崇志さん、そしてピアノの水口綾子さんによって大切に音の一つ一つに魂が吹き込まれ、作曲時に思い浮かべていた様々な情景の中にいるようでした。
ご来場の方々からも嬉しいお声をたくさん頂戴しました。
皆々さま、ありがとうございました。

 

by りき哉

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