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2024年10月 4日 (金)

落としたもの、残り続けるもの

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(2024年9月28日の日記)

電車を降りる人が車内に何かを落としていったのが視界に入った。咄嗟に本を脇に置いてそれを拾い、ドアから半身を出してその人の背中に大声で「落としましたよー!」と叫んだ。二度目で振り返ってもらえたのでホームの床に置いて再び車内に座った。周りの視線が集まり、少し恥ずかしかった。

親切自慢をしたいのではない。昔の出来事を二つ思い出したのだ。

ひとつは比較的最近(2〜3年ほど前か)、地下鉄に乗っていたときのこと。
読んでいた本を閉じて立ち上がり、駅で降りようとすると、後ろから肩を叩かれた。「落としましたよ」と言って女性が私の巾着袋を手渡してくれた。
リュックの中でページが折れないように本を仕舞うための、私のお気に入りの巾着袋(上の写真)。これを失くしたらとても悲しい。「ありがとうございます!」の一言では足りない気持ちだった。今でも感謝している。

もうひとつはスマホもSuicaもまだなかった四半世紀ほど前のある日のこと。
私は自転車を置くと駅へとダッシュした。切符を買って改札を入ろうとしたとき肩を叩かれ、振り返ると見知らぬ女性から「落としましたよ」と携帯電話を差し出された。見れば確かに私のものだ。
落としたのは、自転車を置いた場所しかあり得ない。彼女はハアハアと息を切らしている。
急いでいた私は驚きつつ「ありがとうございます!」と叫び携帯を受け取るや改札を抜け、電車に乗って我に返った。

ああ、お礼をもっと深く伝えたかった。それに・・・、
・・・バカな! 中高6年間バスケ部で鍛えた黄金のステップを駆使して人混みを縫って走ったこの私に、あそこからついてきたというのか? あの僅かな時間差しか開けずに? いったい何者なのか?

その謎と、何より甚だ極めて不十分なお礼を述べることしかできなかった悔いが、今も深く残っている。


あの時のあなたへ。
その折は本当にありがとうございました。あなたの息を切らした姿、あの改札口の光景は、四半世紀を経てなお心に浮かび上がります。生涯ずっと心に残り続けるでしょう。あなたのご多幸を念じています。


by りき哉

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