ローズ・ピアノ出動!(エレピとデジピは違うよ)
先日のライブでは自分のローズ(RHODES)ピアノを持ち込んだ。
これを持ち出すには少々の決心が必要である。
自宅でローズをバラして支度をしていたら、4歳の息子が「うちのもの、ぜんぶ持っていくの?」と心配そうに訊ねてきた。
それほど(お父さんがデジタル・ピアノを持ち出すのを見慣れている息子が「今日は仕事じゃなくて引っ越しか」と思うほど)ローズを運ぶのは大掛かりなことなのだ・・という、よいエピソードになるだろう。(デジタル・ピアノを運ぶのはずっとラクチンである)
それでも、ほぼ年に一度、こうしてローズを思い切り弾きまくれるライブがあるのは嬉しいことだ。
ライブが終わって片付けていると、客席の若い人たちから質問を受けた。
音楽学校の(バンドメンバーの誰かの)生徒たちのようだ。
「それは電子ピアノとは違うんですか?」
「うん、これは電子ピアノじゃなくて電気ピアノ。デジピじゃなくてエレピだよ」
「電気ピアノ?・・デジピとエレピって違うんですか?」
今20代の若者たちがローズ・ピアノを見たことがないのは仕方ないが、音楽を勉強しているのに電子ピアノと電気ピアノ(つまりデジタル・ピアノとエレクトリック・ピアノ)の区別がついていないのは、ちょっとまずい。
「デジピとエレピの違い」は、例えば「エレキギターとアコースティックギターの違い」とは比較にならないほど大きい。
エレキギターもアコースティックギターもどちらもギターという楽器であり、同様にエレキピアノもアコースティックピアノもピアノという楽器であるが、デジタルピアノは楽器とは言えない。
デジタルピアノは、「楽器を模したもの」である。
彼らにローズ・ピアノの内部を見せてあげながら、簡単に説明した。
「デジピは半導体チップに記録したデータを再生しているだけで、鍵盤はそれを再生するためのスイッチに過ぎないでしょ。最近は物理モデリングによるものもあるけど、それもつまりシミュレーションだよね。
でも、エレピは鍵盤を弾くと、ほら、実際にハンマーがこの金属の棒を叩いて、その振動が音になっているんだよ。金属棒の振動をこのピックアップで拾って、それがアンプで増幅されるわけ。だから電気がなくても小さいけどちゃんと音が鳴るよ。エレキギターと同じ仕組みだね」
「うん、うん。そうか!」
まだちゃんと飲み込めないらしい女の子から再び質問を受ける。
「これは、その『ローズの音』しか出ないんですか?いろんな音は出せないんですか?」
「そうだよ。だって、この金属棒の振動が音のモトなんだから、その元の音と違う音は出ないよ。音をエフェクターで加工したりはするけどね。フェイザーかけたりトレモロかけたり・・とか、エレキギターみたいに。どんな楽器でも『その楽器の音』しか出ないよね? デジタルピアノは、アコースティックピアノやこういうエレクトリック(エレキ)ピアノの音を、電子回路で『再現』しているんだよ」
「ああ、なるほど!」
「デジピとエレピ、しっかり区別してね」
「はい!」
彼らの明るい返事に少しほっとした。
何が大切なのか、それを深く見つめようとする姿勢を彼らが持つキッカケの一つになれば、それだけでもライブで本物のローズ・ピアノを使った甲斐がある、というものだ。
トップの写真は、そのステージでセッティングしたローズ・ピアノ。
MARK 1 stageタイプ。鍵盤もハンマーも木製。1979年製。
下の写真はライブ本番中を撮ってもらったカット。
「クルセイダーズ保存委員会」を(冗談半分に)標榜しようかという「NO TEARS」にとって、そのサウンドにローズ・ピアノは欠かせない。
ステージ下手側、リーダーのサックスの高橋厚雄さん、ギターの岩谷耕資郎さん、そしてローズを弾く私。
ステージ上手側、ベースの高山毅さん、ドラムの沼直也さん、パーカッションの山田智之さん。
自宅にて、トップカバーを外して「ハープ」と呼ばれるローズの心臓部が露出したところ。
美しく並んだ金属の板は、ハンマーで叩かれた金属棒の振動を共鳴させるための、「トーンバー」と呼ばれるパーツ。
ハープを直角に立てたところ。
ハープの裏側に、ハンマーで叩かれる金属棒「タイン(Tine)」が並んでいるのが見える。
白と赤がランダムに並んでいるのは、ピックアップ(のコイル)。
鍵盤の奥にはアクション機構が見えている。黒いチップがハンマーの先端で、白いフェルトがダンパー。
「デジタル」と「アコースティックまたはエレクトリック」の本質的な違いについては、ログ「奏でるトイピアノ〜慈しむべき音」の中でも書いていますので、興味のある方は参照くださいませ。
by りき哉
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