音楽警察隊
妻がTSUTAYAで映画のDVDを借りてきたと言うので、何を借りたのか訊いたら
『迷子の音楽警察隊』
だとのこと。
えっ?・・音楽警察隊??
なんだそれは?
私は初めて聞くその言葉に鋭く反応した。
「鉄道警察隊」や「湾岸警備隊」といった言葉に比して、「音楽」と「警察」というまったく不釣り合いな言葉が連結したことによる違和感と、その不思議な滑稽さ。
鉄道警察隊は鉄道の、湾岸警備隊は湾岸の、安全と治安を守ることを使命としている。
・・ということから類推すると、音楽警察隊は、音楽の安全と治安を守ることを使命とする機関であるに違いない。
そして、その主な任務は、音楽(音楽ビジネスではなくて、音楽そのもの)における犯罪を取り締まることであると思われる。
つまり、彼らは警察官の制服を着ていて、ホイッスルを手に、
「ピピーッ!こらこら、そこのメロディにそのコードを弾いちゃいかん!」
とか
「ピピーッ!こらこら、その曲を7拍子で演奏するのは拍子違反だぞ!」
などと言って、音楽を取り締まり、違反者から罰金を徴収したりするのだろう。
年間取り締まり件数が最も多いのは、おそらく速度違反である。
音楽警察隊は、ミュージシャンから音楽における表現の自由を奪う、許し難い存在だ。
しかし一方、音楽警察隊には音楽に対する極めて高度かつ広範な知識と技術が求められる。
コード進行違反者が代理コードで罪を逃れようとするのを追跡したり、拍子違反者が7拍子であることを隠すために7拍2連だけで演奏していることを見破る強靭な音楽力を備えていなくてはならない。
腰には警棒の代わりに横笛(竜笛や能管)を差し、先鋭的な音楽をレパートリーとするフルオーケストラなど巨悪な犯罪組織にも笛一本で立ち向かう勇気と、それを制圧する演奏技術が必要だ。
音楽警察隊の隊員であることは、世界中のあらゆる音楽について演奏技法や作曲技法からその歴史や美学・思想・哲学に至るまで深く精通していることの証であり、ミュージシャンの敵であると同時に、音楽家としての理想像でもある。
私は妻に
「おれ、音楽警察隊の隊長になりたい」
と言った。
「・・ふーん・・」
妻は、その奥深い意味を掴みかねて戸惑ったようにそう一言だけ答えて続けた。
「そこにDVDあるよ」
テーブルの上にあった袋からDVDを取り出してタイトルを確認すると、
『迷子の警察音楽隊』
だった。
おい、ぜんぜん違うじゃないか。
・・まあいい。
「消防音楽隊」とか「Army Band」という言葉を瞬時に連想できず、妻の言い間違いである可能性に気付けなかった私の方が不覚であったのかもしれない。
ビッグバンのごとく膨らんだ音楽警察隊のイメージは行き場を失い、瞬く間にフェードアウトしていった。
・・気を取り直して、近々(返却予定日以内)に観てみよう・・『迷子の警察音楽隊』。
by りき哉
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