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2008年3月18日 (火)

強い音楽と弱い音楽

強い弱いというのは、ここではその音楽の環境適応力についてである。

どんな環境でも成り立つ音楽がここで言う「強い音楽」。
対して、演奏される環境をシビアに選ぶ、状況次第では成り立たない音楽が「弱い音楽」。

状況というのはあらゆる場面が想定できるわけだけど、取り敢えずピアノで演奏する音楽に限って話を進めよう。
ピアニストの立場で頻繁に直面する問題は、ピアノの調律の問題である。
仕事に行った先で弾く楽器はいつも調律の行き届いたスタンウェイのフルコンばかりではない。(そういう機会は私の場合むしろ少ない)

調律の善し悪しは程度問題だが、ひどい場合には「もう一音もピアノは弾かない方が良い音楽になる」というような状況もある。
もっとひどいと、「もう私の唄の方がマシかもしれない」と思えるほどの時もある。

さて、そのような劣悪な調律状態でも成り立つ音楽は、環境適応力に於いて「強い」と感じるのだ。
例えばブルースの様な音楽は、ホンキートンク・ピアノでも成り立つ。それどころかその方が良い味になったりすることもあるくらいだ。
エリントンの「SATIN DOLL」や「IN A MELLOW TONE」のような曲も、少々調律が狂っていても、それも味として吸収しながら成り立ってしまう曲たちだ。

しかし、ジャズスタンダードで言えば、「BLUE IN GREEN」とか「NAIMA」のような曲は、調律の狂ったピアノで演奏してもその曲にはならない。
こういった曲は、和音が美しく響く状況を必須条件として成り立っている。
そういう意味で、ハンコックの「MAIDEN VOYAGE」や「DOLPHIN DANCE」なども同類であろう。
ミシェル・ルグランの「YOU MUST BELIEVE IN SPRING」のような、和声の進行が複雑で美しい曲も、やはり良く調律された状態を前提にしていると言って良い。
こういった楽曲たちは、それが成り立つ調律環境をシビアに選ぶという点で、「弱い音楽」である。

誤解されたくないのだが、私はそういう音楽を「弱い」と言ってけなしているのではない。
私はどちらかというと、ここで言う「弱い音楽」を好み、愛おしんでいる。

調律という環境において弱い音楽は、つまりメロディが常にコードのテンション・ノートに相当している曲とか、和声進行が複雑な曲などである、と大まかに言えそうであるが、しかしそれだけで片付けられない。
ビリー・ストレイホーンの「SOPHISTICATED LADY」などは、メロディがコード・テンションで、かつコード進行も複雑な美しい曲なのに、調律の狂ったピアノでもそれはそれとして成り立ってしまう「強さ」を持っている。セロニアス・モンクの楽曲も同様だ。誠に不思議である。

作曲された時代から受ける、曲に対する先入観のせいだろうか。
先入観を捨てれば、「BLUE IN GREEN」もホンキートンク・ピアノで成り立つのだろうか。
否、主観ばかりではないであろう。調律の善し悪し(ハーモニーの響き)に依存する度合いは、曲によっていろいろある。
調律に強く依存する曲というのはすなわち、その響き自体がその曲の本質であるということである。その響きこそがその曲の同一性(アイデンティティ)なのだ。
そしてそのことは、調律の狂った世界では生きられないという、環境適応力の低さと直結する。

もちろん、強い音楽と弱い音楽の間に明確な境界線があるわけではなく、そこには広範な中間層がある。
また、「SOPHISTICATED LADY」がホンキートンクでも成り立つと言っても、やはり美しい調律で演奏された場合とでは全く違ったものになるし、そういう特殊な効果を狙うのでなければ、美しく響く方が心にも響く音楽になる可能性をたくさん秘めている、ということは言うまでもない。

ここまで「楽曲」という切り口で述べてきたが、「演奏」についても同様のことが言える。
つまり、調律が悪くても成り立つ演奏の仕方と、調律が良くないと成り立たない演奏の仕方がある。
調律環境に対して高い免疫性を持つ楽曲であっても、それをホンキートンクで成り立たせるためには、そのように演奏をアプローチする必要がある、ということである。

本当はそんなレベルに意識を空費したくないのだが、どんな環境でもその中で誠意を持ってベストを尽くしたいと思うので、こういうことを何となく考えてしまうことが時々あるのだ。

by りき哉


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